マリンは茫然と立ち尽くしていた...... 目の前に広がる無残な光景に、ただ茫然と立ち尽くすしかなかった......
「燃えてる...... 何もかも...... みんな燃えてる......」
『聖ヒプノ修道院』の庭園が炎に包まれている...... 世界で一番美しいと称された『聖ヒプノ修道院』の庭園が炎に焼き尽くされている......
小鳥のさえずりも、花の香りも、風になびく木々のせせらぎも何一つ聞こえ無い...... 生命の息吹は全く感じられなかった。 ただ炎が全てを焼き尽くすときの無慈悲な響きしか聞こえなかった......
マリンは『聖ヒプノ修道院』へと続く小道を進んでいった。 その小道の先には炎に包まれた『聖ヒプノ修道院』が見える。 炎に包まれた小道を進むマリンだったが、不思議な事に怖さを感じなかった。 誰かが自分を呼んでいる......? 何かに引き寄せられるようにマリンは『聖ヒプノ修道院』へと向かった......
『聖ヒプノ修道院』は燃えていた...... 紅蓮の炎に包まれて燃えていた...... 『聖ヒプノ修道院』の扉の前は激しい炎で燃え盛っていた。 だがマリンが近づくと、扉の前で激しく燃え盛っていた炎がスッと消えた...... それはまるで、マリンに中に入るようにと言っているかのようであった。
「私に入れというのね......」一体この中に何があるのか......? マリンは静かに扉を開けた。 そしてマリンはそこで絶望的な光景を目の当たりにした。
「メスマリア様が燃えてる......」それは大聖堂に祀られていた『メスマリア』像が炎に包まれ無残にも焼かれている姿だった。 マリンは『メスマリア』像が焼かれているのを目の当たりにした途端、絶望のあまり身体の力が抜けて、その場に膝から崩れ落ちた。
「何で...... 誰がこんな事を...... どうしてこんな事に......」マリンはうわごとのように呟いた...... 日々祈りを捧げ、自分たちの信仰の象徴であった『メスマリア』像が燃えている...... 何故こんな事になったのか? 誰がこんな事をしたのか? マリンは悲観にくれた......
「メスマリアさま......」マリンは燃える『メスマリア』像に祈りを捧げた...... これが『メスマリア』に祈る最後の祈りになると思った......
炎に包まれる『メスマリア』像に祈りを捧げていたマリンだったが、炎の中に人影のようなものがある事に気づいた。
「だれ......? 誰かいるの?」マリンはその人影に向かって声をかけた。 だが、返事は返ってこなかった......
炎の中に人がいる...... この燃え盛る大聖堂の中で一体だれがいるのだろうか? マザーか、それとも『催眠聖女』の誰かなのか?
マリンが疑問に思っていると、突然燃え盛っていた炎が二つに割れた。 そして割れた炎の中から一人の少女が姿を現した。
マリンはその少女を観て寒気がした。 燃え盛る炎の中で寒気を感じるほど少女は美しかった...... 銀色の長い髪...... そして神秘的な瞳をした少女だった。 そしてマリンはこの少女によく似た人物を知っている。
「あなたはあの時の......」少女は『たけのこ学園』で出会った女性によく似ていた。 あのような神秘的な姿をした人間は他にはいない。 だが、マリンが『たけのこ学園』であった時よりも若い姿だった。
少女はジッとマリンを見つめていた...... 黙って見つめている。 「なんて哀しい目なの......」自分を哀しそうに見つめる少女の目...... マリンは今までこんな深い悲しみを感じさせる目を見たことがなかった。 人はこれほどまでに哀しい目をすることが出来るのかと思うほどだった。
「なぜ、そんなに哀しい目をしているの? あなたは一体だれなの?」マリンが哀しい目で見つめる少女に問いかけた。 しかし少女は見つめるだけで、何も答えない......
するとマリンは少女の腕に抱き抱えられている、血まみれの修道女の姿に気づいた。 抱き抱えられた血まみれの修道女は少女の腕の中でぐったりとしていた。 その姿を見たマリンは、修道女がすでに絶命している事を悟った。
少女に抱き抱えてられている血まみれの修道女は、マリンの知らない人物だった。 しかしなぜかマリンの瞳から涙が溢れた...... 理由はわからない。 だがその血まみれの修道女が自分にとって大切な人物であると直感した。
このときマリンは気づいた。 この炎は少女の深い悲しみと、激しい怒りが生み出したのだと...... 少女は修道女の死に深い悲しみを感じ、そして激しい怒りを覚えているのだ。
マリンは『たけのこ学園』での事を思い出した。 あのとき少女と思わしき人物の心を覗いた。 その覗いた心の中にあったものは、全てを焼き尽くす激しい炎のような怒りだった。
「あなたはその人の死に怒っているのね...... その人は誰なの?」マリンは少女に問いかけた。
しかし少女は何も答えない...... 哀しい目でマリンを見つめるだけだった。
「お願い!! 答えて!! 私に何を訴えたいの?! あなたがこの『聖ヒプノ修道院』をこんな風にしたんでしょ? なぜこんな事をしなければならないの?!」マリンは何も答えない少女に向かって必死に訴えた。
だが、やはり少女は何も答えない...... すると少女と血まみれの修道女は再び炎に包まれていった......
「待って!! お願いだから教えて!! あなたは一体何者なの?! 行かないで......」マリンは必死に訴えた。 しかしマリンの必死の訴えも虚しく、少女と血まみれの修道女は炎の中へと消えていった......
「待って...... 私にどうしろというの...... なぜ私に......」一体少女はマリンに何を訴えたかったのか......? そして自分は何か大きな運命を背負っていると感じた。 あの血まみれの修道女を見たとき、他人とは思えなかった。 あの修道女と自分の関係に大きな謎が隠されている。
そしてあの少女は自分に何を訴えたかったのだろうか?
マリンはベッド上で目を覚ました...... また同じ夢を見た。 『たけのこ学園』であの女性と出会って以来、頻繁に同じ夢を見るようになった。 そして夢から覚めると、いつも目から涙が溢れている。
「また同じ夢...... あの日以来、ずっと見続けているわ...... それにいつも泣いている......」夢から覚めると胸が張り裂けそうなほど哀しい気持ちになる。
繰り返し見る夢は一体何を暗示しているのか? マリンは自分の運命が大きく変わる予感を感じずにはいられなかった。 何かが起きようとしている。 それら自分にとって逃れようのない宿命ともいうべきものであると予感した。
果たしてこれから自分にやってくる運命とはどんなものなのか? マリンは言いようのない不安に駆られていた......
「マリンの催眠日記 その4」終
この記事へのコメント