三枝 枝里子と反町の逮捕は、マスコミによって大きく報道された。 社会の悪を暴く美人人気キャスターと、カリスマイケメン経営者の逮捕に世間は大きな衝撃を受けた。
事件の詳細は連日、ニュースやワイドショーなどで報道され、政界や財界への関与なども疑われており、マスコミは激しい報道合戦を続けていた。 三枝が澪奈を陥れるために起こしたという事実が報道されると、マスコミは事の真相を澪奈に聞こうと、澪奈の元に大勢押しかけた。
秀人と澪奈は三枝が逮捕されてから、連日警察の取調べを受けていた。 被害者である二人の証言は事件の真相を知るには重要なものになる。
そして今回もう一つの事実が世間に知れ渡ってしまった。 それは澪奈の恋人が秀人であるということがマスコミに知れてしまった。 人気者の澪奈の恋人ということもあって、マスコミは秀人がどういう人物なのかに興味を持ち、秀人を取材しようと追い掛け回した。
秀人はそのようなことには当然慣れていないため、警察の取り調べも重なって疲労困憊になり、最近はうんざりしている様子だった。
そんな忙しい日々を過ごしながら、警察の取り調べも終了し、マスコミの報道も徐々に沈静化していった。 そして澪奈と秀人の二人は警察署の前である人物が出てくるのを待っていた。
「神山!!」 二人が警察署から出てくるのを待っていたのは、秀人のボクサー時代のライバルだった、『沢田 圭吾』 だった。 警察署から出てきた沢田は秀人たちを見つけると、満面の笑みを浮かべて秀人たちのところへとやってきた。 そして、沢田の後ろには沢田の弁護をした、『真宮 龍子』 がいた。
沢田は恋人である、『北川 愛理』 が三枝の催眠術で操られて秀人を刺した罪を被り、自ら犯人だと自首して警察に逮捕された。 しかし、三枝が逮捕されたことによって事件の真相が明るみに出たことによって、沢田は警察から釈放された。 もちろん犯人を匿った罪はあるが、それはスーパー弁護士である、『真宮 龍子』 の力によって不問になった。
「沢田君!!」 秀人は笑顔で沢田を迎えた。
「神山!! 本当にありがとう!! 何もかもお前のおかげだ!! やっぱりお前は俺のヒーローだよ!!」 沢田は秀人の手をがっちりと握りながら礼を言った。 その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「大げさだよ!! 俺じゃなくて澪奈のおかげさ!! 澪奈がみんなに協力を求めてくれたから解決できたんだよ!!」 秀人は照れながら言った。 澪奈が、『催眠魔女』 たちに協力を求めなければ、到底解決できなかったと思っていた。
「立花さん!! 本当にありがとう!! あなたが真宮弁護士を俺のところに派遣してくれたと聞きました。 そして、あなたの仲間が愛理を匿って守ってくれていたと…… 何とお礼を言っていいかわかりません!!」 沢田は澪奈に感謝の言葉を述べ、深々と何度も何度も頭を下げた。
「礼には及びませんわ!! もともとは私が原因で皆様を巻き込んでしまったことですから…… お詫びをしないといけないのは私のほうですわ。 それと、愛理さんも今は警察の取り調べを受けているそうですね?」
「はい。 愛理の弁護も真宮弁護士がしてくださるそうです!! 真宮弁護士にお任せすれば、何も心配はありません!! 愛理も操られていたので、大した罪にはならないだろうという話です」
「それは良かった!! 龍子さんに任せれば大丈夫ね!! 龍子さん、今回は無理を聞いてもらって、本当にありがとうございます!!」 澪奈は、『催眠魔女』 の仲間である龍子に礼を言った。 だが、龍子は憮然とした表情をしている。
「全く、いきなり私に弁護しろなんて無茶なこと言ってきて、私が普段どれだけの案件を抱えているのかわかってるの? まどかもあなたもほんとに勝手なことばかり言ってくるんだから!! こっちの身にもなってもらいたいわね!!」 龍子は些かご立腹の様子だった。 ブツブツと不満を漏らしている。
「ごめんなさい…… 今回の件に関しては本当に感謝してます!! お礼に今度、食事奢りますから…… それで勘弁してください……」 さすがの澪奈も、龍子にはタジタジの様子だった。 必死に龍子に詫びている。
「まぁ、食事位じゃ今回の働きには見合わないけど、『催眠魔女』 の仲間の頼みじゃ断れないし、今回は食事だけで勘弁してあげるわ!! だから澪奈、ちゃんと礼はしてもらうからね!! まどかにもそう伝えておいて!!」
「ええ…… ちゃんと伝えておきます……」
「それと、三枝 枝里子は、『催眠女帝』 の配下だったそうね? まどかは何か言ってた?」 龍子もやはり、三枝が宿敵である、『催眠女帝』 の配下だったことが気がかりだった。
「一応、まどかさんには報告しておきました。 ただ今回のことは、三枝さんが個人的な事情で起こしたことで、『催眠女帝』 は関わっていないだろうから、『催眠女帝』 が動き出すことは無いだろうと言ってました。 正直、凄く不安だったので、それを聞いてホッとしています……」 澪奈がもっとも恐れていたのは、『催眠女帝』 の報復だったが、それは無いだろうというまどかの見解に胸を撫で下ろしていた。
「そう…… まどかがそう言ってたの……」 龍子は澪奈の話を聞いて、どこか納得していないというか、不満そうな様子だった。
「龍子さん…… 何か不満でもあるんですか?」 澪奈は龍子の様子が気になった。
「私は、『催眠女帝』 が動きだしてくれた方がありがたかったんだけどね…… そうなれば、『カーミラ』 に復讐することが出来る!! あの悪魔だけは、絶対に私の手で葬ってやるわ!! 必ずね……」 龍子から凄まじい怒気が発せられている。 その目には強い覚悟が感じられた。
「龍子さん……」 龍子の鬼気迫る様子に、澪奈は不安になった。 龍子がこれほど、『カーミラ』 に怒りを燃やす事情は知っている。 知っているからこそ不安を感じていた。
『催眠吸血鬼 カーミラ』 の恐ろしさは知っている。 『催眠女帝』 配下の中で最強といわれる催眠妖女であり、龍子とは因縁浅からぬ間柄だった。
「冗談よ…… 『催眠女帝』 と戦わないのが一番いいことよ。 そんなに心配そうな顔しないでもらいたいわね。 澪奈は意外と冗談が通じないようね……」 心配そうな澪奈を見て、龍子ははぐらかすように言った。
「…………」 澪奈は龍子の言葉を信じてはいなかった。 龍子は本気だ!! 決して冗談で言ったのではないと……
「悪いけど私はこれで行くわね。 愛理さんのところにも行かなきゃならないし…… 後はあなたたちに任せるから。 じゃあね……」 龍子はそのまま何事も無かったかのように立ち去っていった。
秀人、澪奈、沢田の三人は立ち去っていく龍子に深々と頭を下げた。
バキッ!! 坂崎の怒りがこもった拳が工藤の顔面を捉えた。 坂崎は工藤と倉庫から連れ出し、自分の所属する組織のアジトへと運び、そこで工藤に制裁を加えていた。
「か、、、、勘弁してください!! 坂崎さん!! 助けてください!!」 縄で縛られ、身動きが出来なくされた工藤は坂崎に助けてくれるように必死に懇願した。
「ふざけた事を言うな!! 俺はお前を助ける気は無い!! だが、安心しろ。 直ぐには殺さない。 自分のやったことをたっぷり後悔させてからあの世に送ってやる!!」 坂崎は工藤に対して容赦する気持ちは全く無かった。
「そ、、、、そんな……」 工藤は絶望した。
「死ぬまでの間、二人への詫びの言葉でも考えておくんだな…… まぁ、もっともお前は地獄に行くのだから、天国にいる二人に会うことは出来ないだろうが……」
「あ、、あれは事故だったんだ!! 別にあの二人を狙ったわけじゃない!! だから、許してくれっ!!」 工藤は泣きながら坂崎に命乞いをした。
「フンッ!!」 工藤の侘びを聞いて、坂崎は怒りのパンチを工藤に見舞った。 工藤の口から夥しい血が噴出した。
「今さら何を言ってる!! 組織を裏切り、関係の無い人間の命を奪っておきながら、あれは事故だと…… お前のような外道だけは決して許しはしない!! 自分の罪深さを思い知らせてやる!!」 坂崎は怒りを抑えきれず激昂した。
「や、、、やめてくれぇ~~~~~っ!!」 工藤の絶叫が響き渡る。
怒り狂った坂崎は鬼の形相で何度も何度も執拗に工藤を殴り続けた…… 坂崎の身体は工藤の返り血を浴び、真っ赤に染まっていた…… 坂崎の拳から血が滴り落ちる…… その血塗られた拳から滴り落ちる血が、坂崎が流す血の涙のように感じ取れた……
催眠道化師(78)終
(79)へ続く
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