催眠道化師(75)

 『愛』 の心を取り戻した澪奈の瞳はかつてない輝きを放っていた。 眩いばかりに輝き、その輝きには憎しみを浄化していく力があった。 その力が、三枝の憎しみの催眠空間を瞬く間に消滅させていく……

 「消える…… 憎しみの催眠の力が…… あの光は何なんだ?! 今までの立花 澪奈じゃない!! これが、『催眠魔女』 の真の力なのか……」 三枝は澪奈から沸き起こる強い力を感じていた。 自分とは全く性質の違う力を…… 

 「そうよ…… これが、『催眠魔女』 の、『愛』 の力の催眠…… 亡くなった兄や子供たち…… そして私の愛する秀人さん…… みんなが私に、『愛』 をくれた…… そして私もみんなを愛している…… 『愛』 は無限の力を与えてくれる…… 憎しみは力を与えないわ……」 

 「何を言う!! 私は憎しみの心を持ってから、以前よりも遥かに強い催眠の力を手に入れた!! 憎しみだって力を得られるはずだ!!」

 「三枝さん…… それは違うわ…… あなたは本当は、『愛』 を欲しているのよ…… あなたの心の奥底には、人に愛され、愛したいという強い羨望があるわ…… しかし、それが叶わないとわかってしまったあなたは、その心を消し去ろうとして、憎しみを増大させようとしたのよ…… でもあなたは本当は望んでいなかった…… その迷いと葛藤があなたの催眠を強くしただけ…… 憎しみの力ではないわ……」 澪奈は三枝の心の奥底にある、『愛』 への羨望を見抜いていた。 本当は誰よりも、『愛』 を欲していたことを……

 「そんな…… 私は、『愛』 など望んでいない…… 勝手なことをほざくな!! 私の何がわかるというのだ!!」 三枝は澪奈に心の中にあった葛藤を見抜かれ逆上した。

 「三枝さん…… さぁ、私の目を見て……」 逆上する三枝に、澪奈は自らの目を見るように言った。 澪奈の目には三枝への怒りも、そして哀れみも無かった…… 優しく自愛に満ちた眼差しで三枝を見つめている…… そして瞳の輝きから、三枝の目に向かって一筋の光が放たれた……

 澪奈の瞳から放たれた光は、三枝の瞳の中に吸い込まれていく…… 「あ、、ああ…… か、身体が温かい……」 光を浴びた三枝の身体が徐々に温かくなっていった…… 柔らかく温かいぬくもりが三枝を包みこんでいるようだった…… 

 「三枝さん…… あなたは私の、『愛の催眠』 にかかったわ…… とても、温かくて心地良い気分になってくるでしょう…… さぁ、憎しみを捨てて、私の、『愛』 を受け取って……」 澪奈は優しく三枝に語り掛ける……

 「に、、憎しみを捨てる……」 三枝の心に澪奈の言葉が染み渡ってくる…… そして三枝の瞳に満ちていた憎悪の影が少しずつ無くなっていく…… そしてその瞳は力を失い、目は虚ろになっていた……

 「そう…… 憎しみを捨て、今まであなたが憎しみの催眠の奴隷にした人達を解放してあげて…… さぁ、みんなを憎しみの催眠から解き放って……」 澪奈は三枝の憎しみの催眠の根源である、憎しみの催眠の奴隷たちを解放するように言った……

 「解放…… 憎しみから…… 解放……」 三枝は虚ろな目で呟いていた…… そして、三枝の背後に浮かんでいた黒い渦の回転が段々と弱くなっていった…… 渦の回転が弱くなったことによって、憎しみの催眠に囚われた者達の人影が渦から解放されようと浮かび出てきた。

 「三枝さん…… それでいいのよ!! もう少しで、みんなを解き放つことが出来るわ…… ほら、あなたの心から憎しみがどんどんと消えていく…… 憎しみが消えていくと、とてもすっきりとした清清しい気持ちになるわ…… とても気持ちがいい……」 澪奈は、『愛の催眠』 にかかった三枝に優しく暗示を与える…… 澪奈の暗示が三枝の心にある憎しみを消していく……

 「あ…… ああ…… き、、気持ちがいい…… 消える…… 憎しみが消える……」 三枝の表情が恍惚とした表情に変化していった。 憎しみが消えていく快感が身体を駆け巡っている。

 「三枝さん…… とても気持ちがいいでしょう…… あなたは全ての憎しみを消し去った時、あなたの快感は最高潮に達してしまう…… 『愛の催眠』 が与える最高の快感を感じて…… 私が三つ数えると、あなたの心から全ての憎しみが消え、最高の快感を感じて絶頂に達してしまう…… さぁ、最高の快感をあなたに与えましょう…… ひとーつ……」 澪奈は三枝を最高の快感へと導いていく…… そして、絶頂へのカウントダウンを始めた。

 「はあ…… はぁ…… はぁ……」 澪奈がカウントダウンを始めると、三枝の快感が一気に増していき呼吸が荒くなっていった。 その強烈な快感に三枝は全身を振るわせる…… もう、憎しみを維持できない……

 「三枝さん、気持ちいいでしょう…… もう直ぐあなたは絶頂に達してしまうわ…… ほら、私の目を見つめて…… もっと気持ちよくなってしまう…… どんどん気持ちよくなっていく…… ふたーつ…… ほら、どんどん快感が増していって、絶頂へと上り詰めていく……」 快感で全身を振るわせる三枝にさらに快感を増幅させる暗示を与えていく……

 三枝は澪奈の暗示に従って、澪奈の輝く瞳を見つめている…… 目を離すことが出来ない…… 澪奈の不思議に輝く瞳を見ると、快感が増していく…… 「きもちいい…… もうだめ…… からだが…… からだが痺れる……」 

 「あと一つであなたは絶頂を迎えるわ…… 今から最高のエクスタシーを、あなたに体験させてあげる…… エクスタシーに達したとき、あなたの心から全ての憎しみが消えしまう…… 三枝さん…… 最高のエクスタシーを感じなさい!!」 三枝を絶頂に導き、憎しみの催眠に囚われた者達を解放し、三枝を憎しみの呪縛から解き放つ…… それが、『催眠魔女』 の、『愛の催眠』 の真髄である。

 「か、、感じたい…… 最高のエクスタシーを私に…… 私に与えてください……もう、我慢できない!!」 三枝は、もう澪奈の与える、『愛の催眠』 の魅力の虜になっていた。 早く絶頂を迎えたい!! 憎しみから解放されたいと願いようになっていた。

 「わかったわ…… 最高のエクスタシーをあなたに与えてあげる…… 準備はいいわね?」 澪奈の瞳が、さらに激しく輝く……

 「は、、、、はい……」 三枝はもう正気を保っていなかった…… 口から涎を垂らし、ただ快感に酔いしれている…… 後は絶頂を待つばかりだった……

 「いくわよっ!! みーーーっつ!! さぁ、思い切り快感の最高潮に達しなさい!!」 澪奈がフィニッシュの合図を三枝に送った。

 「アァァァァァァーーーーーッ!! いっっっくぅぅぅぅぅーーーーっ!!」 フィニッシュを浴びた三枝は大絶叫しながら、『愛の催眠』 のエクスタシーに達した!! 全身に凄まじい快感が駆け巡る!! 圧倒的な快感の前に白目を剥き、全身を痙攣させて快感の境地へと堕ちていく…… そして、三枝がエクスタシーに達すると同時に、三枝の背後にあった黒い渦は爆発して飛び散り、飛び散った黒い影のようなものは、そのまま跡形も無く消滅していった……

 澪奈は絶頂に達した三枝の様子を静かに見守っていた…… 黒い渦が消えたことによって、三枝は憎しみの催眠の力を失った…… 『闇の催眠術師』 である三枝は澪奈の、『愛の催眠』 の前に敗れ去ったのだ……

 絶頂を終えた三枝は、快感のあまり意識を失い、そのままゆっくりと崩れていった…… 地面に倒れこんだ三枝はピクリとも動かなかった……

 「ウッ!!」 秀人と坂崎を襲っていた反町と工藤は三枝が崩れると同時に、まるで電池が切れたかのようにピタリと動きを止めた。 そして、三枝と同じようにゆっくりと崩れ落ちていく…… まるで、糸が切れた操り人形のように……

 「こ、、、これは……?」 突如倒れこんだ反町に、秀人は困惑した。 一体何が起きたのか? 秀人と同じように坂崎も突如崩れ落ちた工藤に驚きを隠せない様子だった。 そして秀人は澪奈の方に視線を向けると、澪奈はジッと三枝を見つめていた。

 秀人も澪奈と同じように三枝に視線をやると、そこには崩れ落ちた三枝がいた…… 崩れ落ちた三枝を見て、秀人は全てを理解した。 「澪奈…… 終わったんだね……」

 「ええ…… 終わったわ……」 澪奈は静かに答えた……

 「そうか…… 終わったんだ……」 秀人、澪奈、坂崎の三人は崩れ落ちた三枝たちを静かに見つめていた…… 倉庫の中は先ほどとは打って変わって静寂に包まれていた……





催眠道化師(75)終




(76)へ続く

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック